手垢のついたページ

「手垢のついた言葉」について考えてみたいと思う。

よく聞く言い回しだが、つまりそれ自体が手垢のついた言葉になってしまっているということは置いといて、手垢のついたという言い方自体はだいたい悪い意味で使われている。あいつの作品は手垢のついた表現だらけだ、というように。僕も何かを書くときは、できるだけ手垢のついていない伝え方をしたいと思っている。

だけど、手垢のついていることはそんなに悪いことなのだろうか。多く使われているということは、それだけ多くの人に伝わる可能性が高いということでもあるんじゃないだろうか。多分このようなこと自体もGoogleで検索したら多くの人が同じようなことを言っているんだろうから、検索しない。

毎日毎時間Twitterを眺めていると、どういう言葉が流行っているのかもなんとなくわかる。具体例は挙げないけど、そういう言葉を使うと手軽に斬新で、おもしろく、伝わりやすくすることができる。別に使ったっていいと思うけど、個人的にはなんか負けた気がするからそういう言葉はできるだけ使わない。

言葉を「強い言葉」と「弱い言葉」に分けることができるとすると、流行り言葉は強い言葉だ。単純でわかりやすい表現、インパクトのある表現も強い言葉だ。インターネットでは強い言葉を使った方が有利だ。短い言葉が大量に流れていくタイムラインの川の流れの速さの中で、強い言葉はよく目立って、わかりやすいから、誰かの目にとまり、拡がりやすくなる。拡がるとなんかいいことがあるわけでもないけど、自分の言葉が拡がるとやっぱり嬉しい。もちろん、それでお金を稼いでいる人だって大勢いる。だから、知らず知らずの間にみんな強い言葉を使う。弱い言葉はその中で目立たず、ひっそりと川の底に積もっていく。僕はできるだけ、そんな弱い言葉を紡ぎたい。あれ、何の話してるんだっけ、そうだ、手垢の話だ。なんとなくだけど、強い言葉は手垢がつきやすい言葉のような気がしている。

言葉の手垢は、いつつくのだろうか。言葉を書き込むときに、どうにかしてこの言葉でもって誰かを驚かせたい、笑わせたい、感心させたい、怒らせたい、悲しませたい、そんな意図があって手に力が入ると、手汗が出て、手垢になって、少しずつ言葉にこすりつけられるのかもしれない。

あるいはもっと単純に、あなたが今やっているみたいに、言葉を次々に読むために画面をタップしたり、スクロールしたりするたびに、指先から少しずつ垢がこびりつくのかもしれない。

手垢のついたページ

by @sngazm

このページは、手垢のつくページです。誰かがこのページを開いてスクロールする時についた、指紋や指のこすれた跡が残っています。

あなたがこのページを読むときにつけた手垢は、あなたがこのページを去った後もここに残り続けます。

読む人が増えれば増えるほど、白かったページは黒ずんでいき、やがて汚れて読めなくなるでしょう。

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